遺産分割協議における詐害行為とは
遺産分割協議は相続開始の後、相続人全員で話し合う場ですが、遺産分割協議において、「詐害行為」と言われる行動がいくつかあります。
遺産分割には法定相続分が定められており、だれがどの程度の財産を相続するかの基準が設けられています。
そのため、各相続人の同意があれば自身の法定相続分を下回る財産のみを受け取ることも、全く相続しない選択肢も可能ですし、逆に特定の相続人に財産を放棄させることも違法ではありません。
しかし、一部の相続人が自己の資産では支払いきれ莫大な借金をし、財産を減少させるような場合が「遺産分割協議における侵害行為」の代表例です。
本記事では、この侵害行為について解説します。
目次
詐害行為の例
遺産相続開始時に、負債を抱えている相続人が、第三者と組んで財産を隠したり、特定の債権者にだけに弁済したりするのは公平性に欠ける行為です。
そこで民法は、恩恵を受けた受益者と債務者とが、債権者に害を与えることを知ってとき、債務者のした財産隠しなどの行為を取り消すことができるとしています。
これを侵害行為取消権と言います。
(詐害行為取消請求)
第四百二十四条 債権者は、債務者が債権者を害することを知ってした行為の取消しを裁判所に請求することができる。ただし、その行為によって利益を受けた者(以下この款において「受益者」という。)がその行為の時において債権者を害することを知らなかったときは、この限りでない。
2 前項の規定は、財産権を目的としない行為については、適用しない。
3 債権者は、その債権が第一項に規定する行為の前の原因に基づいて生じたものである場合に限り、同項の規定による請求(以下「詐害行為取消請求」という。)をすることができる。
4 債権者は、その債権が強制執行により実現することのできないものであるときは、詐害行為取消請求をすることができない。
引用元:民法
具体例として、5,000万円の借金をしたある債務者(相続人)が、債権者からの差押えを免れるために、被相続人の全財産1,000万円相当の預金を親族に贈与するケースです。
この時、債権者(他の相続人)は、自分の債権(得られるはずだった遺産)を回収するために、債務者が行った詐害行為を取り消すといった具合です。
ちなみに、債務者が行った法律行為のうち、財産権を目的としないものは取消権の対象とはならないとされています。
主な法律行為としては、婚姻、縁組、離婚による財産分与、相続の承認・放棄などの「身分行為」と呼ばれるものです。
遺産分割協議がなぜ対象になるかと言うと、相続開始の時点では相続人全員の共有財産となった遺産の全部又は一部を、特定の相続人が勝手に所有・占有していることになるので財産権を目的とする法律行為であり、詐害行為取消権の対象となります。
詐害行為取消権を行使するためには
遺産分割が詐害行為取消権の対象となり得るとして、どのように進めていけば良いのか解説します。
債権者取消権が認められるための条件
- 1.債務者たる相続人が、遺産分割によって債権者の権利を侵害する認識があること
- 2.遺産分割によって利益を受けた相続人(受益者といいます)が、その事実を認識していたこと
- 3.原則、金銭債権が存在すること
- 4.発生原因が詐害行為前に成立していたこと
- 5.債務者側の要件として、詐害行為時と取消権行使時の双方の時点で無資力であること
- 6.詐害行為となる行為が財産権を目的とするものであること
などがあります。
詐害行為取消権が認められる場合であっても、債権者が裁判所に訴えを提起する必要があります。
相続放棄に詐害行為取消権は行使されない
相続放棄はじめから相続人とならなかったものとみなされますから、身分行為としての性格が強く、他人の意思による強制は許されるべきではないというのが主な理由のようです。
さらに、相続放棄は相続開始から3か月以内に行うのが決まりですので、その短期間で借金をし、他人の連帯保証人になったりするのは事実上難しいという判断です。
詐害行為取消権の時効は?
債務者が債権者を害することを知って行為をしたことを取消債権者が知ったときから2年が経過するまでに訴えを提起しなければ、行使できなくなります。
また、詐害行為時から10年が経過したときも訴えの提起はできません。
詐害行為取消権の期間の制限
第四百二十六条 詐害行為取消請求に係る訴えは、債務者が債権者を害することを知って行為をしたことを債権者が知った時から二年を経過したときは、提起することができない。
行為の時から十年を経過したときも、同様とする。
引用元:民法
まとめ
債権者にとっては有利な権利ではありますが、裁判での行使が必要なことから、法律の専門的な知識が要求されます。
また、いざ詐害行為取消権を行使しようとしても「証拠」がなかったり、揃えられたとしても、時効期間を過ぎていれば意味がなくなってしまいますので、詐害行為取消権行使の際には、まずは弁護士に相談されることをお勧めいたします。
このコラムの監修者
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福田法律事務所
福田 大祐弁護士(兵庫県弁護士会)
神戸市市出身。福田法律事務所の代表弁護士を務める。トラブルを抱える依頼者に寄り添い、その精神的負担を軽減することを究極の目的としている。