遺産分割における配偶者の生活基盤の確保
遺族間の関係性や遺産分割の結果によっては、遺産分割で配偶者が不利になることもあります。
例えば、これまで住んでいた住居を売却することになったり、預貯金などを相続できずに、生活資金が不足したりすることが起こり得ます。
上記のようなトラブルから配偶者の生活基盤を守るために創設されたのが配偶者居住権です。
この記事では、配偶者居住権の概要やメリット・デメリットについてご説明します。
目次
配偶者の生活基盤を守る配偶者居住権とは
配偶者居住権は、配偶者の生活基盤や生活資金を保護するための権利のことをいいます。
以下のように、短期と長期それぞれの権利を保護しています。
- 1.配偶者の居住権を短期的に保護する配偶者短期居住権
- 2.配偶者の居住権を長期的に保護する配偶者居住権
1. 配偶者短期居住権とは
配偶者短期居住権により、配偶者に不利な遺言が残されていたとしても、一定期間自宅にすみ続けることができます。
多くの場合、夫が亡くなった後も配偶者は自宅に住み続けることかと思います。
しかし、中には夫の遺言で自宅が配偶者以外の人の手に渡るようなケースもあります。
そうなれば、配偶者は自宅から出ていかなければなりません。
このような事態から配偶者を保護してくれるのが配偶者短期居住権です。
これによって、配偶者は以下のいずれかのうち遅い日まで自宅に住み続けることができます。
- 自宅を相続する人が決まるまで
- 相続開始から6ヶ月が経過するまで
最終的に配偶者が自宅を相続しなかったとしても、最低6ヶ月は今の家に住み続けることができます。
2. 配偶者居住権とは
配偶者の生活資金を確保するためには、預貯金のような、自宅以外の遺産を多く取得することが大切です。
自宅の所有権ではなく、居住権を取得することで、預貯金などの遺産を多く取得できます。
これは、所有権の取得価格よりも居住権の取得価格の方が低いためです。
以下、配偶者が自宅の所有権を取得した例と、居住権を取得した例をそれぞれ見ていきましょう。
【例】
相続財産:預貯金(2,000万円)、自宅(評価額:2,000万円、居住権:1,000万円)
分割方法:配偶者2分の1、子2分の1。自宅は配偶者が相続
配偶者が自宅の所有権を取得した場合
配偶者の相続分は、自宅(2,000万円)のみ
子の相続分は、預貯金(2,000万円)
配偶者居住権を利用せずに遺産分割をしてしまうと、配偶者は預貯金を相続できないため、生活資金を十分に確保できないことになります。
配偶者が自宅の居住権を取得した場合
配偶者の相続分は、自宅の居住権(1,000万円) 、預貯金(1,000万円)
子の相続分は、自宅負担付所有権(1,000万円)、預貯金(1,000万円)
配偶者居住権を利用すると、預貯金1,000万円を相続できるので、生活資金を十分に確保できます。
配偶者居住権を利用する際の注意点
配偶者居住権を利用することで、配偶者は自宅に住み続けられるうえに、預貯金など住居以外の遺産を多く取得できることがわかりました。
しかし、配偶者居住権を利用する際には以下のような点に注意する必要があります。
自宅の譲渡や売却はできない
配偶者居住権を利用すると、配偶者・子ともに自宅を譲渡・売却するのが難しくなります。
配偶者が得るのは家に住む権利である居住権だけです。
所有をしているわけではないので、配偶者の意思で自宅を売却することはできません。
一方、子は所有権を持っているので、自宅の譲渡・売却が可能です。
ただし、売却できたとしても、居住権を持っているのは配偶者であるため、新たに自宅を購入した人が住むことはできません。
期間の定めがない限り、配偶者居住権は配偶者が亡くなるまで消滅しません。
配偶者が居住権を放棄することもできますが、もちろん本人の合意が必要となります。
所有者も税負担をすることになる
改正民法では、配偶者居住権を取得した人(配偶者)が自宅の必要費を負担することになっています。
必要費の中には、自宅の建物の固定資産税も含まれています。
ただし、土地の固定資産税は自宅を相続した人(子)が負担しなければなりません。
子にとっては住んでいない家の固定資産税を支払うことになるため、金銭的にはデメリットとなります。
まとめ
配偶者居住権を利用することで、配偶者は今の自宅に住み続けつつも預貯金などの遺産を相続しやすくなります。
ただし、自宅の売却が難しくなったり、家に住んでいるわけではない子が固定資産税を負担することになったりと、いいことばかりではありません。
納得感のある遺産分割をするためにも、配偶者居住権を利用する際は1度弁護士にご相談いただければと思います。
このコラムの監修者
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福田法律事務所
福田 大祐弁護士(兵庫県弁護士会)
神戸市市出身。福田法律事務所の代表弁護士を務める。トラブルを抱える依頼者に寄り添い、その精神的負担を軽減することを究極の目的としている。