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成年後見人制度は昔より使いやすくなった?!

親や祖父母に認知症の疑いが出たとき、誰が身の回りの世話や財産の管理をするのか、決めておくといいかもしれません。認知能力が低下し高額商品の契約や財産の管理などが難しくなる前に、法律上でできる対策として「成年後見人制度」があります。
成年後見人制度は、2000年の民法改正の際に伴い始まったものでそれ以前に使われていた「禁治産制度」よりもかなり使いやすくなりました。今回は、旧制度と新制度の違いと、制度がよく似た「家族信託」との違いについてご紹介します。
 

旧制度は「禁治産者」と「準禁治産者」の2種類のみだった

現在の成年後見人制度は「成年被後見人」「被保佐人」「被補助人」の3類型に分かれているのに対し、旧制度では「禁治産者(現在の成年被後見人)」と「準禁治産者(現在の被保佐人)」の2類型しかありませんでした。
また、当時禁治産宣告や準禁治産宣告を受けた人は、戸籍に記載されていました。戸籍に記載されれば就職や結婚に影響が出たり、社会的に差別を受けたりする可能性もあります。本人だけでなく家族にもその被害が及ぶため、旧制度はあまり利用されていませんでした。
現在の成年後見人制度では戸籍には記載されず、新制度では法務局ないし地方法務局で登記の手続きを行います。不動産登記と同様で、登記を閲覧できるのは本人、配偶者、四親等内の親族、または成年後見人、保佐人、補助人のみとされており、プライバシーは確保されています。
 

新制度では判断能力に応じて3つの類型に分けている

成年後見人制度は、事理弁識能力(判断能力)の程度に応じて次の3類型に分けられています。
 

  • 成年後見人…判断能力が全くない人が対象
  • 保佐人…判断能力が著しく不十分な人が対象
  • 補助人…判断能力が不十分な人が対象

 
認知症の診断を受けた人や知的障害がある人を保護することを目的に制度化されました。こうした人たち契約行為を制限したり取り消したりできる人たちはそれぞれ「成年被後見人」「被保佐人」「被補助人」と呼ばれ、裁判所によって選定されます。
これに似た制度として「任意後見人」があります。任意後見人は認知症になる前の段階から判断能力の低下に備えて任意後見契約を締結します。その後、本人の認知機能が低下したときに家庭裁判所に申し立てを行い、「任意後見監督人」が選任されます。
 

成年後見制度の制度趣旨

成年後見人制度は、本人の自己決定を尊重することに重きを置いています。そのため、判断能力が全くない成年後見人でも日常の買い物程度なら成年後見人による取消はできません。
そして、判断能力がない人が高額商品を売りつけられて多額の財産を失うなどのトラブルを防止する目的もあります。あくまで本人の保護、ならびに本人の代理人として成年後見人制度が利用されています。
 

家族信託との違い

成年後見制度に似た制度として「家族信託」があります。どちらも認知症などの判断能力に問題がある人の財産を管理するという点で共通していますが、それぞれ目的や運用方法が異なります。
成年後見人は認知症になってから裁判所に申し立てることで利用できる制度ですが、家族信託は認知症になる前から、信頼できる家族に財産を託す契約を締結するので、裁判所を通さずに運用できます。任意後見人も判断能力が低下する前に利用できますが、家族信託とは制度趣旨が異なります。
 

成年後見制度と家族信託の違い

成年後見人制度 任意後見人 家族信託
目的 判断能力が低下した人の財産の保護、身上監護 判断能力が低下する前に身上監護人を選定し、被後見人と任意後見人と任意で契約を締結する 判断能力が低下する前に信頼できる家族に財産の運用、管理を任せるもの
財産を管理する人 成年後見人(主に弁護士や司法書士など) 任意後見人(主に弁護士や司法書士など) 信頼できる身内の中から選ばれた受託者
報酬の有無 あり(本人の保有財産によるが概ね月額2~6万円程度) 任意後見人と任意後見監督人にそれぞれ1~2万円程度 家族信託契約で報酬の定めをしたときのみ発生
財産管理者の選定方法 裁判所が選任 裁判所が選任 家族との話し合いで選任
監督機関 裁判所 任意後見監督人 信託監督人。必須ではないのでいなくてもよい
財産の運用 原則不可 原則不可 受託者の権限内で運用可能
本人死亡後の財産の取り扱い 後見業務終了。財産を引き継ぐのみで、死後の手続きや遺産整理はしない 後見業務終了。財産を引き継ぐのみで、死後の手続きや遺産整理はしない 受託者の権限内で資産承継可能
開始時期 判断能力低下後 判断能力低下前 判断機能が低下する前ならいつでも可能

 
成年後見人は財産の管理、保護や成年被後見人の身上保護を目的としています。そのため、投資などの資産運用や生前贈与など、相続税対策や資産運用でも本人の財産が減少する行為は不可能とされています。
その点、家族信託はどちらかと言えば相続税対策として利用されることがほとんどです。受託者は受託された財産の範囲内なら資産運用も生前贈与も可能になります。
こうしてまとめると家族信託の方が手軽に利用できそうに感じます。しかし、家族信託は成年後見人とは異なり、代理権や取消権がありません。そのため、本人の認知症が悪化したのちに、不動産の売買などの多額の契約をしてしまったとしても、取消ができない点に注意が必要です。
また、家族信託では信託されている財産のみ権限があります。例えば不動産だけ管理を任されている場合、その不動産に関する契約や訴訟は可能ですが、信託されていない他の財産については何もできないというわけです。
 

成年後見制度や家族信託なら相続に詳しい弁護士にお任せください

成年後見人制度と家族信託、「どちらがいい」というわけではなく、本人の希望や判断能力を考慮して利用する制度を決めることが大切です。わからないことがあれば相続に詳しい弁護士にお気軽にご相談ください。

このコラムの監修者

  • 福田大祐弁護士
  • 福田法律事務所

    福田 大祐弁護士(兵庫県弁護士会)

    神戸市市出身。福田法律事務所の代表弁護士を務める。トラブルを抱える依頼者に寄り添い、その精神的負担を軽減することを究極の目的としている。

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