相続放棄の撤回
目次
はじめに
当事務所に寄せられたご質問にお答えいたします。
私の父は、自営業をしていましたが、3000万円の借金を残して亡くなりました。父が残した借金を相続しても返済できる金額ではないと判断し、相続放棄の手続を進めています。ところが、最近になって父が株取引で利益を得ていたことがわかりました。借金を返済してもまだ資産として十分な額が残るそうです。そこで、相続放棄の撤回をしたいのですが、このような理由で相続放棄の撤回はできるのでしょうか?
法律上、相続放棄の撤回は認められていないため、相続放棄をするときは慎重な判断が求められます。ただし、例外的に相続放棄を撤回できるケースもあります。どのようなときに相続放棄の撤回が認められるでしょうか。
相続放棄の撤回が認められるケース
相続放棄が認められるのは、次のケースに限定されています。
①相続放棄の申述書が受理されていない
②詐欺または脅迫によって強制的に相続放棄させられた場合
③未成年が法定代理人の同意を得ずに行った相続放棄
④成年被後見人が行った相続放棄
⑤後見監督人がいるのに、被後見人もしくは後見人が後見監督人の同意を得ずに行った相続放棄
⑥被保佐人が保佐人の同意を得ずに行った相続放棄
①は、まだ相続放棄の手続が完了していない段階のため、相続放棄の撤回ができます。②~⑥は、すでに裁判所に相続放棄の手続が完了していますが、本人の意思によらない相続放棄や、未成年者などの制限行為能力者が行った相続放棄には例外的に撤回が認められています。
今回ご質問をいただいた方の場合、相続放棄の申述書が正式に受理されていない段階なら撤回できます。しかし、すでに申述書が受理されているなら、相続放棄の撤回は残念ながら難しいでしょう。
相続放棄撤回の手続
相続放棄の撤回をする場合は、相続放棄の申立てを行った人が、家庭裁判所に取消の申し立てを行います。申立期間は追認(騙されたとわかった時または脅迫の状態から免れた時)から6ヶ月以内、または相続放棄の手続が完了してから10年以内に手続が可能です。これのいずれかを過ぎると時効により権利が消滅します。
まとめ
相続放棄を撤回するには、上記のような理由がなければ認められません。「やっぱり気が変わったから」あるいは「実は財産が残っていたから」などの理由で撤回することは禁止されています。安易な理由で相続放棄の撤回を認めると遺産分割協議が進まず、相続手続が長引いてしまい他の法定相続人に迷惑がかかってしまうためです。
相続放棄は、相続放棄をするかしないかを判断する「熟慮期間」(相続の開始があったことを知った時から3ヶ月間)が法律上認められており、相続放棄を希望する場合は熟慮期間内に手続を行います。相続放棄をする場合は、この熟慮期間内に被相続人の財産をしっかり把握したうえで手続を進めるのが望ましいでしょう。
このコラムの監修者
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福田法律事務所
福田 大祐弁護士(兵庫県弁護士会)
神戸市市出身。福田法律事務所の代表弁護士を務める。トラブルを抱える依頼者に寄り添い、その精神的負担を軽減することを究極の目的としている。