株式の相続
目次
はじめに
遺産に株式がある人は、意外と多いです。
典型的には、被相続人が上場会社の株式を投資や株主優待目的で保持していた場合です。
あるいは、勤め先の持株会で株式をもっていた場合もあるかもしれません。
また、被相続人が株式会社を経営していて、その株式がある場合もあるでしょう。
株式と一口にいっても、どのような会社のどのような株式かで相続する際の手続も異なります。
株式を相続する場合に、どのような点に注意をすればいいのかをみていきましょう。
株式はどのように分割されるのか
株式は、相続と同時に当然に分割されるものではなく、相続によっていったん相続人全員の「共有」となります。
ですので、相続人が遺産分割協議をして、相続人全員の合意のもと、相続すると決まった人が株式を被相続人から引き継ぐことになるのです。
証券口座の作成が必要
被相続人が証券会社の口座に株式(後に述べる「上場株」)を保有しており、遺産分割協議によってこれを相続人の1人または複数人が相続することに決まったとします。
その場合、証券会社は株式を相続することになった相続人全員に、当該証券会社の証券口座を作成することを求めてきます。
これは預かり資産が他に流出しないための証券会社側の営業対策の側面が大きいですが、昨今はマネーロンダリング対策等の影響で証券口座の作成は非常に手間がかかりますので、その点は覚悟する必要があります。
内容をよく確認して署名押印を
また、これは株式に限りませんが、金融機関は相続手続をする際に「代表者選定届」等の提出を求め、そこで決まった相続人の代表者が指示する内容どおりに分割を実行するをいう方法をとることがあります。
このとき、実際の分割内容まで確認したうえで「代表者選定届」に相続人として署名押印しないと、実際の協議内容と異なる分割をされてしまう危険があります。
実際に、悪意のある相続人がこの「代表者選定届」を悪用して遺産を取り込んでしまいトラブルになった事例を複数見ています。
株式の種類
上場株式(公開株)
上場株式は、証券取引所に上場され、証券会社や銀行などの金融商品取引業者を通じて一般に取引できる株式を言います。
被相続人が株の取引をしていると身内に話していた場合、その株は通常上場株式です。
なぜなら、上場株式は証券会社などで口座を開設すれば気軽に売買でき、簡単に保有できるからです。
ちなみに現在、上場株式はすべて電子化されて株券が発行されず、かつて発行された株式はすべて無効になっています。
もし、遺産の中から上場会社の株券が出てきてもその株券自体に価値はありませんが、電子化されている株式を探す手掛かりになります。
非上場株式(非公開株)
非上場株式は、証券取引所で公開されておらず、一般に流通していない株式をいいます。
上場株式とは違い、証券会社や信託銀行は取り扱っていません。
被相続人が非上場株式を持っている場合とは、自分あるいは身内が会社を経営している時や、知人の会社に出資している時などです。
そのため、手続の際は自分で株式発行会社を調べて問い合わる必要があります。
非上場会社の株式は、上場会社のように株券の電子化が強制されないので、株券を発行している場合もあれば、していない場合もあります。
相続財産である株式の調査方法
まず、相続財産となる株式がどこにどの程度あるのかを調査します。
それも、株式の種類によって調査する方法は異なります。
上場株式の場合
先ほど述べた通り、上場株式は証券会社や信託銀行、その他の銀行などの金融商品取引業者等が管理をしています。
よって、被相続人が上場株式を保有していたか、どの銘柄の株式会社がどの程度あるかについては、窓口となっている証券会社や信託銀行等に確認すれば分かります。
窓口となっている会社から定期的に書類が送付されていることが多いので、その書類を確認して会社へ取引残高報告書の発行を依頼することで明らかになります。
相続をする際には、窓口となる証券会社や信託銀行などから取り寄せた書類を確認し、取引残高報告書を発行してもらって手続を進めていきます。
非上場株式の場合
非上場株式の場合は、証券会社等が管理しているわけではないので、株式を発行している会社に直接問い合わせることになります。
しかしながら、非上場会社の株式の相続においては、当該会社を支配する他の親族との間に紛争が生じており、相続の対象となる株式がどれだけあるか、すんなり教えてくれない場合もあるかと思います。
その場合、当該会社の法人税確定申告書を入手して確認したり(別表二「同族企業の判定等に関する明細書」に株主名簿の記載があります)、被相続人の相続税申告書を入手して株式数の記載を確認したりします。
しかし、それらも開示されない場合は相当紛争性が高いといえるので、遺産分割調停や遺産確認訴訟も検討する必要が出てくるでしょう。
株式の評価
遺産分割協議をするにあたって、株式がどれほどあり、いくらの価値になるのかは相続人の関心事です。
むしろ、それがいくらと評価されるかが決まらなければ、他の遺産も含めて遺産分割はできないというべきでしょう。
したがって、株式をどのように評価するかが問題となります。
これも、上場株式と非上場株式で異なります。
上場株式の評価
上場株式の場合は、わりあい簡単です。
証券取引所で日々株式の値付けがされているからです。
基本的には、被相続人が亡くなった日の終値が株式の価値になります。
被相続人が亡くなった日が土日・祝日だった場合、相続発生日に最も近い過去の終値を相続発生日の終値として計算します。
非上場株式の評価
非上場株式の評価は、わかりやすい決まった方法が確立されているわけではなく、それぞれ考え方の違う複雑な方式がいくつもある状態です。
相続税の計算においては、1株当たりの純資産額で評価する方法、他の類似業種の複数企業の株式平均値などを基準に計算する方法などがあります。
しかし、これは税務署が認める比較的簡易な評価方法に過ぎず、遺産分割審判やその他の訴訟手続において非上場株式の評価が争われる場合、裁判所は必ずしも税務署と同じ評価方式を採用するわけではありません。
非上場株式の評価はとても複雑で正確に予測しにくいので、専門家に評価してもらうしか方法はないといってよいでしょう。
もちろん、遺産分割協議は相続人全員が合意できればどのような内容でもよいので、非上場株式についてこのような専門家の評価を経ることなく、簡易な評価方式で相続人全員が合意できれば問題はありません。
株式相続後の手続
上場株式の場合
株式を相続した相続人は、証券会社等を通じて株式の名義書換をしてもらいます。
証券会社の口座で管理していない上場株式の相続手続は、当該上場会社が株主名簿の管理を任せている株主名簿管理人(信託銀行や証券代行会社)の窓口ですることになります。
非上場株式の場合
株券が発行されている場合は、株券発行会社に株券を提示して名義書換手続に行くことが必要です。
発行されているはずの株券が見当たらないときは、株券発行会社に対して、株券を喪失した旨を「株券喪失登録簿」に記載または記録することを請求します。
その記載または記録から1年すれば、株券が無効となりますので、その後に名義書換の請求をすることができるようになります。
なお、非上場株式会社の発行する株式は、譲渡制限付株式である場合がほどんどですが、譲渡制限付株式であっても、相続人が相続したことを理由とする場合には、会社の承認なしに株式を引き継ぐことができるのが原則です。
もっとも、会社が定款で定めていれば、会社が相続人に対して株式を会社に売り渡すように請求する権利があります。
会社から株式の売渡請求を受けた場合、譲渡制限付株式の相続人は、株式の対価を取得することになります。
まとめ
以上、株式の相続について概観してきました。ご理解いただけたでしょうか。
株式はそもそもその存在の調査が面倒ですし、株式の種類によって手続も異なり、相続人に荷が重いこともあるかもしれません。
また既に述べたように、被相続人が会社経営をしており非上場株式を保有していた場合、その株式の価値の計算は非常に専門的になります。
いずれにしても、株式の相続について少しでもわからないことがあれば、弁護士に相談することが大切です。
このコラムの監修者
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福田法律事務所
福田 大祐弁護士(兵庫県弁護士会)
神戸市市出身。福田法律事務所の代表弁護士を務める。トラブルを抱える依頼者に寄り添い、その精神的負担を軽減することを究極の目的としている。