未成年がいる遺産分割について
当事務所に寄せられたご質問にお答えいたします。
息子は父と夫を事故で亡くし、妻である私と21歳の息子、17歳の娘の3人で夫の遺産を相続することになりました。
先日、知人から相続人の中に未成年がいるときは、家庭裁判所で代理人を立てなければならないと聞いたのですが本当でしょうか?
私と子どもたちはわりと仲が良く、遺産相続で揉めることもないと思うのですが、それでも娘の代理人を立てたほうがいいのでしょうか?
携帯電話の利用申し込みや習い事への入会申し込みなど、未成年が親の同意をもとに契約をするのと同じように、制限行為能力者が法律行為を行うときは代理人の選任が必要となる場面が多くあります。
遺産分割協議においても未成年者の相続人がいるときは代理人を立てなければなりませんが、例外的に親以外の第三者を選任しなければなりません。以下、詳しくご紹介します。
相続で親が法定代理人になれない理由
民法上、20歳未満の未成年の子の財産の管理は父母または親権者が行うと規定しています。片方の親権者がなくなったとき、遺産分割では未成年者の相続分についてももう一方の親権者が管理すると思われるかもしれません。
しかし、遺産分割協議では、被相続人の財産の配分を配偶者や子などの相続人同士が話し合って決めます。
客観的に見て親と子の間で利害の対立が生じる関係にあり、親が子の代理として遺産割協議をすることは、親と子で利益が相反する「利益相反行為」にあたるため、家庭裁判所に特別代理人の請求をしなければなりません。
今回ご質問をいただいた方も、法定相続人の中に未成年者がいるとのことですから、家庭裁判所に特別代理人専任の申し立てを行う必要があります。たとえどれだけ親子間で仲が良くても、第三者である特別代理人が未成年者の代理人となることで、客観的かつ公平な遺産分割を実現するわけです。
特別代理人専任の手続き
特別代理人とは、相続など利益相反があるときに家庭裁判所が選任する代理人のことをいいます。
一方の親権者が未成年の子の住所地を管轄する家庭裁判所に候補者を挙げ、特別代理人専任の申し立てを行います。
事案にもよりますが、子が法定相続分を取得できるよう配慮された遺産分割協議書案が提出されていれば、実務上は特別代理人の選任が可能になります。
特別代理人となる人に資格や条件等は必要なく、親族でも候補者として挙げることができます。
家庭裁判所は、申立の際に提出された遺産分割協議案の内容を見ながら、候補者として挙げられた人が子の利益を侵害するかどうかを考慮したうえで代理人の決定を行います。
そのため、親権者が申し立てを行い、当該親権者の親や兄弟などの有利な親戚が特別代理人として選ばれ、結果的に子の利益が侵害されるといった心配はありません。
特別代理人の申立ては早期に行うこと
特別代理人の申立ては、選任までに1か月ほどかかります。そこから遺産分割協議を行い、相続人全員の署名押印(相続人に未成年者がいる場合は特別代理人の署名押印)が必要となります。
また、相続税は、法律上、被相続人が亡くなってから10か月以内に行わなければなりません。相続税を申告する際、遺産分割協議書を添付していればさまざまな相続税額の軽減措置が受けられますが、遺産分割協議が進まず、納税が遅れると軽減措置を受けられなくなることがあります。
相続人に未成年者がいるときは、通常の遺産分割よりも手続きに期間を要するので、特別代理人の選任から納税まで、できるだけ早期に動くように心がけましょう。
このコラムの監修者
-
福田法律事務所
福田 大祐弁護士(兵庫県弁護士会)
神戸市市出身。福田法律事務所の代表弁護士を務める。トラブルを抱える依頼者に寄り添い、その精神的負担を軽減することを究極の目的としている。