騙されて遺産分割協議書に押印してしまった
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騙されて遺産分割協議書に押印をした場合でも遺産分割協議をやり直すことは可能?
騙されて遺産分割協議書に押印してしまった場合でも、遺産分割協議を無効にしたり取消しできる場合があります。
そもそも、騙されるケースには、
- ①詐欺や強迫によって不本意な遺産分割協議書に署名押印してしまったケース
- ②遺産分割協議書をよく確認せず署名押印してしまったケース
- ③遺産分割協議の前提に錯誤があるケース
などが考えられます。 今回はこの3つのケースについて解説します。
詐欺や強迫によって遺産分割協議書に押印してしまった場合
詐欺や強迫によって遺産分割協議書に押印してしまった場合、遺産分割を取り消すことができます(民法96条1項)。
ただし、詐欺に限っては、相続人間では遺産分割を取り消すことができても、詐欺があったことを知らなかった第三者に対しては、取り消しの主張できない場合があるので注意が必要です(民法96条3項)。
これは、詐欺にあった人は、被害者であると同時に、強迫の場合に比べて詐欺を見抜けなかったという落度があるからと考えられています。
例えば、詐欺をして遺産分割協議をして土地を取得した人がいたとしても、遺産分割協議後にその土地を取得した人がいるとします。
この場合、その取得者が詐欺の事実につき何も知らなければ「あれは詐欺だったから土地を取得することはできない。」と取り消すことができません。
他方、強迫によって遺産分割協議書に押印してしまった場合は、その後に遺産を取得した人が現れても取消しを主張することができます。
以上のとおり、詐欺や強迫で自分の希望しない遺産分割が行われても、取消しを主張してやり直すことはできます。
しかし、詐欺があったとは知らずに契約を結んだ第三者に対しては取消しを主張できない場合があるのです。
遺産分割協議書をよく確認せず署名押印してしまった場合
遺産分割協議書をよく確認しないまま押印してしまった場合、後になってそんなつもりではなかったと言いたくなるケースがあると思います。
例えば
・相続税の申告期限が迫っているからと急き立てられて慌てて押印してしまったケース
・まさか兄弟に裏切られると思わずよく確認しなかったケース
などです。
しかし、遺産分割協議書にある署名押印が自分のものである場合は、裁判でこの言い分を通すことは容易ではありません。
紛争の実態としてはよくある話だと思うのですが(これまでの経験でもこういう相談は多い)、こういう重要な書類に署名押印する以上は内容を確認しないことはありえない、という経験則を裁判所は採用します。
その経験則を本気で信じているというよりも、そういうルールにしないと社会が回らないという配慮があるように思います。
したがって遺産分割協議書の内容を確認していない、という言い分を正面から主張するのは得策ではありません。
次項に述べるように、少し角度を変えて署名押印に至った経緯に錯誤があると主張できないか検討していくことをお勧めします。
遺産分割協議の前提に錯誤がある場合
遺産分割協議書の前提を勘違いしていた場合、その理由によっては法律的には錯誤(民法95条)として取り扱われる可能性があります。
民法95条1項は、「意思表示は、次に掲げる錯誤に基づくものであって、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは、取り消すことができる」と規定されています。
そして同項2号が「表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤」を掲げています。
これを遺産分割協議に当てはめると、遺産分割の前提となった重要な事情について真実を認識しないまま遺産分割協議書に押印してしまった場合には、民法95条の錯誤といえる余地があります。
例えば、預金はほとんど残っていないとの説明を受けて協議書に押印したのに、実は多額の預金が残されていた場合などです。
この場合は錯誤による取消しを主張して、遺産分割協議のやり直しを求めていくこととなります。
追認に注意
もっとも、取消しには追認といって、取り消しうることを知りながら遺産分割協議の内容を正当なものと認めてしまうと、後から遺産分割協議書の有効性を争えないことがあるため注意を要します。
今回のケースで言えば、詐欺を受けたことを知りながら協議内容に従って手続きを進めてしまうケースなどです。これを追認といい、意思表示の取消しはできなくなります。
万が一、強迫されたり騙されたりして遺産分割協議書に押印してしまい、どのようにすればよいのかわからないと困っているといった場合には、まずは一度、遺産問題に強い弁護士に相談することをおすすめします。
遺産分割協議の一覧はこちら 遺産分割協議
このコラムの監修者
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福田法律事務所
福田 大祐弁護士(兵庫県弁護士会)
神戸市市出身。福田法律事務所の代表弁護士を務める。トラブルを抱える依頼者に寄り添い、その精神的負担を軽減することを究極の目的としている。