誰が相続人になるのかわからない
目次
1 初めに
今の時代は金融機関の手続も厳格になっており、例えば被相続人の預金口座を解約するのにも、相続人全員の承諾を求められます。
したがって誰が相続人かを把握していないと、相続手続は全く進みません。
しかし、親族が多く、また関係が複雑な場合、他に誰が相続人になるのか、相続人自身でも分からないことがたまにあります。
相続人は、どのようにして調べればよいのでしょうか。
2 何を調べる?
相続人を明らかにするもの、それは戸籍です。
日本は明治以降、戸籍制度が完備されていて,相続人の存在やその範囲は戸籍以外では証明できません。
戸籍は出生時に登録され、死亡まで記録されます。その間、本籍地の移転や結婚・離婚、あるいは分籍、家督相続などが生じると、その都度新しい戸籍に移っていきます。
ですので、人は一生の間にいくつかの戸籍を「渡り歩いている」のが通常です。
亡くなった被相続人について、出生から死亡までの戸籍をすべて集めることが、相続人を調べる基本になります。
ただし、戸籍に登録している者全員が死亡した戸籍は「除籍」とされ、そこから80年(近年延長されて150年)経過すれば廃棄されている場合があります。
ですので現在であれば、大正以前の戸籍は場合によっては廃棄されて現存していない可能性があります。
3 死亡時の戸籍謄本から出生時まで順番に遡る
相続人を調べるには、まず被相続人の出生から死亡までの戸籍を集めます。
実際には、亡くなった時の最後の戸籍から、過去にさかのぼって戸籍を取り寄せていくことになります。
4 複雑な相続関係の調査
①兄弟による相続
被相続人に子がなく、親も死亡している場合、兄弟が相続人になります。
この兄弟全員を調査するためには、被相続人の出生から死亡までの戸籍だけでなく、被相続人の父と母それぞれの出生から死亡までの戸籍を全て集めなければ、相続人の調査は完成しません。
自分は被相続人の兄弟くらい全部把握している、と思いがちですが、被相続人の一生分の戸籍だけでは他に兄弟がいないという証明にはなりません。
なぜなら、被相続人のさらに親は再婚だったかもしれないからです。被相続人の戸籍には、再婚前にもうけた子供は出てこないことが多いです。
被相続人の親世代(だいたい明治末~大正生まれ)は、病死や戦死も多く、家制度の意識も強いため再婚は当たり前のようにありました。
当事務所の依頼者でも、被相続人の親が再婚だと今回初めて知ったという方は多いです。
このような理由により、兄弟相続においては必ず被相続人の両親の出生から死亡までの戸籍を集める必要があるのです。
また、兄弟相続において兄弟が死亡している場合は、その子(被相続人の甥姪)まで相続人になります。
そうすると、同様に兄弟の出生から死亡までの戸籍を取得する必要があります。そうしないと、甥姪の全部が判明しないからです。
②再婚の相続
被相続人が再婚している場合、前の結婚(または後の結婚)で子供がいないか確認する必要があります。
再婚前(再婚後)の配偶者や子供らとは交流がないのが普通ですし、再婚前(再婚後)の戸籍だけを見てもその存在は判明しないため、これを見落とす危険があります。
そして,再婚前(再婚後)の子供が死亡している場合、その子供の出生から死亡までの戸籍を集める必要があります。
死亡前に子供をもうけている場合、代襲相続の可能性があるからです。
③数十年以上前まで遡る相続
数十年前の相続について何らかの手続きを行おうとする場合(例えば、先祖代々の土地の登記名義を大昔から変えていない場合)、戸籍を遡って集めていく作業は同じですが、その際相続人の範囲や相続分が現在の法律とは異なっているので注意です。
相続では、原則として相続開始時の法令が適用されます。
ですので手続きをしようとしているのが現在でも、相続開始時の法律を基準に考えなければなりません。
なお、相続に関する法律の変遷は以下のとおりです。
- ①明治31年7月16日から昭和22年5月2日まで
- ②昭和22年5月3日から昭和22年12月31日まで
- ③昭和23年1月1日から昭和55年12月31日まで
- ④昭和56年1月1日から平成25年9月4日まで
- ⑤平成25年9月5日から令和元年6月30日まで
- ⑥令和元年6月30日以降
特に③から④への変更が大きく、よく見落とされる点です。昭和55年以前の相続について何らかの手続きをしようとする場合は要注意です。
5 専門家に依頼すべき場合
複雑なケースの相続人調査は、専門家でも慎重に進めなければ見落とす場合があります。
ご自身で調べてみてもよくわからない、自信がないという方は、弁護士や司法書士・行政書士に相談してみてはいかがでしょうか。
このコラムの監修者
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福田法律事務所
福田 大祐弁護士(兵庫県弁護士会)
神戸市市出身。福田法律事務所の代表弁護士を務める。トラブルを抱える依頼者に寄り添い、その精神的負担を軽減することを究極の目的としている。